Yumekoの花癒し

花との暮らし 花とポエム ショートエッセイ ほんわか日記 豊かな心よ花開け!

二人の老婆

年老いた老婆には

自分の手で果たしたい役割が二つありました

 

痛々しいほど己に問い続けた後に意を決し、

大切なものを捨てて駆け出そうとする少年に

老婆の都合や心情を伝えて良いものか

悩み悩んで物言えず過ごした日々

ロッキングチェアーから転げ落ちた痛みで

ついに老婆は喋り出す

 

長男はちょうど今、4年かけて支払う借金が

700万になるか250万になるかの

岐路に立っていて

間もなく桜が咲くかどうかでそれが決まります

長男の一番の希望は借金を250万に収め

家を出て一人の生活に挑戦すること

老婆は借金の額より自活できるかを気にかけ

最低でも1年はこの家に居て

検討するよう息子に話を持ちかけている

何年もかけて教え見守った末、

やっと自分の部屋が片付けられるようになった

頼りない息子でも巣立つ日は来るもの

もう少し、暮らしについて教え

私の手でしっかりと送り出してやりたい

それが出来るのはこの老婆しかいないのです

 

娘に老婆は自分の反省から

「女でも自活できるチカラを身につけなさい」

と常々語ってきていました

老婆をヘトヘトにさせるほど

世間知らずで無鉄砲な娘も幼子を抱えて以来

やっと素直に耳を傾けるようになり

今はささやかな経済力を身に付ける道の途中

娘の連れはかなりの年上で

娘が自分のチカラで生きなければならない未来は

必ず訪れるから

ささやかな武器を手に入れるまでは

手を貸せる場所に居たい

それが出来るのはこの老婆しかいないのです

 

皿洗いの少年が自分が先に駆けて行っても

後から来れば良いと謳ってくれた記憶はあるものの

どの位待たせるのを許してくれるのだろうか

それにも増して、

少年の日々の懸命な働きぶりや

少年のもつ愛おしさを思うと

少年をひとりぼっちにすることに

居ても立っても居られなくなる老婆の姿が

いとも簡単に目に浮かぶのです

 

役割を意識する老婆と

居ても立っても居られない老婆

二人の老婆が反対向きに引っ張り合わずに

手を取り合うには…

 

 

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