昔々、皿洗いの少年が洗い場に立って
毎日謳う歌を聴いているうちに
少年の夢を叶えたい想いが
老婆に芽生えていったのでした
少年の喜怒哀楽に富んだたくさんの歌は
老婆にも数々の喜怒哀楽をもたらし
人生で最も濃密な年月を生み出していきます
少年の愛の歌は
老婆にきつく何重にも絡みついていた
「私には愛される資格がない」と鳴る鎖を
解いて床に落としました
少年の内省の歌に
その人格を知って深く感心し
しかしその強さに甘えて成長できていない己を
反省することもありました
少年の怒りの歌には
老婆はあっけなく打ちのめされてしまい
立ち直るのにいつも時間がかかります
長年の少年の思い遣り溢れる想い歌に
老婆は支えられ今があります
しかしながら喜怒哀楽の波に酔い眩暈がして
数日、歌が聴けなくなったりもしたものです
貴方の歌も聴こうとの少年の誘いに
凝り固まった喉を開けず
失礼をしたのは老婆です
沢山の知恵の歌を書き留めても
頭にモヤがかかって上手く飲み込めず
それでもアドバイスを活かしたいともがき
心を開くことからやってみます
若々しさに溢れる少年の歌を聴いて
玉石混淆の想いが激しく駆け巡り
判断に迷っても
少年が謳う夢を忘れることも捨て去ることも
老婆には出来ないのでした
